私は約20年間「製造業向けERP業界」で仕事をしていますが、この業界内部のことも少しお話ししたいと思います。もしかすると、この業界に興味がある学生の皆さん、この業界へ転職しようとしている社会人の皆さんに少しばかりお役に立つかもしれません。
20年以上前、私は「総合商社オンラインシステム」や「公益法人会計システム」など製造業とは関係ない業界に関わっていたという話は以前に書きましたが、これらの業界と「製造業」に関わる人たちは文化も考え方も全く異なります。
バブル時代の商社は裏方であるシステム関連の人たちも皆さんが想像されるような「バブル」のイメージでした。女性は前髪が「竹輪」、男性のスーツと言えば「ソフトスーツ」です。公益法人の方は経理部の方が「算盤」で計算しているという時代でした。
同様に、製造業には製造業のノリ(文化)があります。製造業に関わる方々と一緒に仕事をするためには「製造業のノリ」を理解し、そのノリに乗ることが重要です。
昔は生産管理システムに関わる人は「生産管理ヲタク」が多かったのですが、「ヲタク」と言っても強面のおっちゃんです。いいモノを早く、安く作るために日夜考えて検証、実践しながら業務とシステムの仕組みを作ってきたおっちゃんです。このようなおっちゃんに「欧米系生産管理パッケージソフトウェア」を採用して頂くことは至難の業でした。
まず、言葉が通じるようになるまでが大変です。メーカー毎に方言があり、「製番」「工番」「作番」などはその一例です。部品表の呼び方も「BOM」「BM」「PS」と様々です。歴史のある会社では数十年、もしかすると百年以上使ってきた言葉を簡単に変えることはできません。そのようなおっちゃんに「ERPはベストプラクティスで・・・」というようなセールストークをしてもコテンパンにやられてお終いです。
今では、そのようなこだわりの固まりのようなおっちゃんも随分減って「使えるものは何でも使う」というおっちゃんが増えてきましたが、他国、他業種と比較すると日本の製造業はプライドが高く、頑なで「うちの会社は特別だから」と言って欧米型生産管理パッケージを採用するハードルはまだまだ高いと思います。
そのような高いハードルを越えることを楽しみに感じる方はこの「製造業向けERP業界」に向いていると思いますが、そうではない方はかなり辛いかと思います。一言で表すなら「知的好奇心」です。私は数多くの製造業向けERPの営業職や技術職の方と接してきましたが、どちらの職種においても「知的好奇心」が少ない方はあっと言う間に潰れてしまいます。
もうひとつ、この業界に従事する人に必要なのは「柔軟な頑固者」という資質です。財務会計システムなどの「答えがあるシステム」と違って生産管理システムは「答えがないシステム」です。お客様の課題解決やシステム要件を柔軟にかつ確たる軸を持ち、大胆にかつ繊細に実現するには「柔軟な頑固者」である必要があります。お客様と表面上仲良くするだけで立派なシステムが実現するようであれば誰も苦労しません。お客様と真剣な喧嘩が出来る位の根性が無いと製造業向けERPの営業職も技術職も務まりません。
ちょっと辛辣な話になりましたね。次回は楽しい話を書けたらいいなと思っています。