2014年4月25日金曜日

【製造業の基幹システム #10 ERPの生まれと育ち】

昨今では全く新しいERPブランドが出てくることはほとんどなくなり、かつてのERPが淘汰され生き残ったものが、各々進化しているような状況です。さて、一言で「ERP」と言っても(「ERP」と名乗っていても)各ERP製品のコンセプトや目指しているものは様々です。

私は、各企業がERPを選択する時に一番注目しなくてはならないのは「ERPの生まれと育ち」だと思います。ERPのような業務横断型の統合パッケージは、ある日突然誕生したのではなく、元になるアプリケーションソフトウェアがあり、そこから拡張してERPを名乗っているものがほとんどです。これが「生まれ」です。また、各ERPは初期~中期の利用企業による各ERPへ機能追加要求があり、機能拡張を繰り返してきました。これが「育ち」です。

例えば、Infor LNは、組立製造業向け生産管理システム(BMCS)から生まれたERPですが、他のERPには会計システムから生まれたERPだったり、プロセス製造業向け生産管理システムから生まれたERPだったりするものもあります。

また、生まれた「地域」にも注目する必要があります。世界中で使われている多くのERPは欧州生まれです。元来欧州では多国籍企業が多く、異なる文化や習慣、法令や規制と接しながら事業を行ってきました。このような企業文化の中で生まれたシステムは、生まれた時からDNAとしてのグローバル機能を持っています。また、欧州各国は近年において多くの「変化」を経験してきました。通貨統合はもちろん、国の存在そのものが変化した国や地域も数多くあります。このような変化に対応するシステムでなければ欧州では生き残れません。

私自身はオランダ(Infor LNの生誕地)の会社、イギリスの会社、米国の複数の会社に所属してきましたが、欧州と米国の企業文化は全く異なりますし、DNAレベルでのシステムの思想が異なります。

さて、ERPとして生まれたシステムは、各ERPベンダーの企業戦略によって成長するのですが、育ち方によっては良くも悪くもなっていきます。かつて私が関係した米国系ERPベンダーは昨年日本法人が無くなりましたが、これも企業戦略のひとつです。Infor LNもかつては様々な業種業態へ対応するような戦略(例えば、BaanIVにはプロセス製造業向けモジュールがありました)をとった時期もありましたが、インフォア社に買収された以降は「組立製造業向けERP」としてターゲットを絞っています。これも企業戦略のひとつです。また、新バージョンに追加される機能は、多かれ少なかれ既存ユーザーの要求仕様が反映されます。組立製造業をターゲットにしたInfor LNは、組立製造業が必要とする機能をこれでもか、という位に詰め込んできました。あえて対象業種を絞り込むことにより、その業種が必要とする機能をバージョンアップ毎に反映しながらも複雑性を抑えることに成功しています。このような「お客様に育てられる」という側面も忘れてはなりません。

このような「生まれと育ち」に注目すれば、おのずとERPの選択肢は数少なくなり、無駄なERP検討やERP選定の時間を節約することができるのではないでしょうか?